2005.7月15日
まさかのほんと



「お久しぶり」。自転車運転中、互いに声をかけてすれ違う。

「お元気?」「相変わらずよ」と挨拶を交わすのが常套句なのだが、この日は違った。

「それが元気じゃなかったの」。

相手が自転車を降りれば、こちらも降りて対応せざるを得ない。

「とにかく大変だったの」と自転車を降りるやいなや話し始めた。

おばさんと同じ年であるこの彼女、良性のガンを手術したのだという。

めずらしい病気だったと得意になって大声で説明しまくる。

病気もめずらしいと自慢になるものらしい。

「胸が大きくなるとほんとは自然消滅するところなんですって」。

彼女は自分の大きな胸に手をあて説明しつつ、おばさんの不発に終わった胸を見て、

「胸が大きくならなくても大人になると、消滅するところらしいの」と言い換えた。

こどもの時代の部分が無くならず残っていた自分が、愛おしいように微笑む彼女。


と、「くやしくて!」「文句言いに行こうかしら」彼女の口調がにわかに荒立つ。

ことの始まりは咳が止まらず、気管支炎かと病院へ行ったそうだ。

検査づくめで出てきた結果は癌。

一ヵ月後に再度MRを撮った。と、癌は倍の大きさになっていた。

あと一ヶ月経ったら、おそらくこの倍になるかも…と医者は言う。

良性の癌とは言え、倍に拡大した腫瘍を見て、大ショックを受けるのは当然だ。

急を要すと言われれば、あわてふためくのも無理はない。

どうせ切るならと、知人のいる外科医のいる病院で手術をしたという。

ところが術後、手術をするまでの大きさでもなかったと執刀医に言われたのだ。

「くやしいじゃない。大きくなっていたガンの写真、あれ拡大写真だったの」

拡大。なるほど拡大すればなんだって大きくなる。

「拡大よ、くやしい! 」一段と拡大する彼女の声に通り行く人は驚く。


まさかにしてほんとの話なのである。
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