2003. 5月2日
言うは易く行うは難し



午後3時、両手に荷物を下げながら、渋谷駅東横線のホームを前へ前へと歩いた。

ここらで妥協と出発待ちの車両に乗り込んだ。

<空いてる、空いてる>座席は右も左も選り取り見取り。

進行方向右側、入り口間際に手荷物を隣に広く陣取ってゆったり座った。

不思議なもので、人が座っている場所から座席は埋まっていく。


「空いてる、空いてる」中年夫婦が入ってきた。

向かいッ側はガラガラっていうのに、この夫婦、おばさんの隣にきっちり座った。

「2両目は避けた方がいいんだって。事故があったとき一番危ないっていうからさ」

ご亭主は統計上だの、構造上だの説明を聞こえよがしに話す。

「まだ1両目の方が安心ってわけよ」。夫婦の会話が発車待ちの車内に響く。

「ちょっとあんた、ここ2両目よ。あっちに移る?」1両目を指差す奥さん。

ここでいいよと亭主。今日は事故なんて起こらない、起こっちゃ困るしさとご両人。


ガッタンゴットン電車は走り始めた。

「電車は外側に座るのがいいんだって」

内側だと事故に巻き込まれ易いと亭主に説明する奥さん。

「ぶつかるかもしれないでしょ」。座った座席は内側。

反対方向から来た電車があっという間に過ぎ去った。

「向かいッ側に移るか」ご亭主の気配りにも全く無関心な奥さん。

話しは聞いた。言いたいことは分った。


“話しだけ夫婦”に喝!

1両目は空いてるよ! 向こうッ側も空いてるよ!               目次へ