叱られて泣いた
夫の買ってきた一枚のCD、日本の合唱曲名曲選「水のいのち〜大地讃頌」を何度も聴いた。
八木重吉、北原白秋の詩など20曲が収まっている。
その中で武満徹作詞作曲「小さな空」が私の心に広がる。
「♪〜いたずらが過ぎて叱られて泣いた、子どもの頃を思い出す〜」と繰り返されるメロディ。
空、雲、夜空の星、子ども時代それらはみんな友達だった。
遠い昔の悲しみが、なぜか私をやさしくいやしてくれる。
昭和40年代初め、都民合唱団に応募、私はメゾソプラノのパートになった。
「いたずらが過ぎて」のフレーズに、指導してくれた先生の話を思いだす。
「叱られた夜、母の部屋が少し開いていた。そっとのぞくと母はレコードを聴きながら泣いてい
たのです。母はたびたびその部屋から涙をふきながら出て来ました。ある日、母の出て行ったあ
と、こっそり部屋に入り、母が聴いていたレコードはアベマリアでした。母は悲しい時、つらい
時にそのレコードを聴いていたのでしょう。レコード盤の線はすり減っていました」。
叱られて泣くのは子どもだけでない、叱った大人も泣いているのだと知った。
私は叱られた頃を懐かしく思い出し「小さな空」を曲を聴いている。
2003年3月22日付 東京新聞朝刊
「レディスアイ」に掲載 目次へ