電子商取引と通常取引の違い

Q1.
取引にはどのような種類がありますか。
A1.
取引の当事者間の距離によって区別する民法上の取引の類型についてお話します。
民法は、
(1) 対話者間の取引(対面する当事者が口頭による会話によって行う取引)
(2) 隔地者間の取引(遠隔地にある当事者間で書面を交換することによって行う取引)
の2つの類型を想定して規定しています。商法(企業および商取引関係に関する民法の特別法)についても同様です。

(1)の取引においては、

図/(1)の取引

・ 申込と承諾がそれぞれ即時に相手方に到達すること
・ 申込と承諾の交換が同時(またはわずかな時間の間隔)でなされること
・ 申込と承諾がそれぞれ相手方に到達しないという事態が通常生じないこと(申込または承諾をした者が即時に確認可能であること)

が特色として考えられます。

(2)の取引においては、

図/(2)の取引

・ 申込と承諾が相手方に到達するまでに時間がかかること
・ 申込と承諾の交換に時間の間隔があること
・ 申込と承諾がそれぞれ相手方に到達しないという事態が通常生じること(申込または承諾をした者が即時に確認できないこと)

が特色として考えられます。

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Q2.
電子商取引の場合、通常の取引とはどのような点が異なるのでしょうか。
A2.
双方向のコミュニケーションとしては、電話による取引がありますが、これは「(1)対話者間の取引」の類型に含まれると考えられますので、民法の規定を特に変更する必要は生じません。
ところが、電子商取引は、「(1)対話者間の取引」と「(2)隔地者間の取引」のそれぞれの特色を兼ね備えているので、民法の規定をどのように適用するのか問題となります。

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Q3.
電子商取引において、通常の取引と同じ条件でも契約が成立しない場合はありますか。
A3.
契約の成立に関して書面が要求される場合と要求されない場合で異なります。

(1) 原則
 電子商取引の場合、申込と承諾という意思表示の伝達がデジタルという手段でなされる点が通常の取引と異なるだけであり、基本的には通常の取引と同様に考えられます。
 また、完全自動発注のプログラムが組み込まれたコンピュータによる自動発注についても、プログラムを組み込んだのは人間(法人)ですから、プログラムを組み込んだ人(法人)の申込という意思表示がなされていると考えられると思いますので通常の取引と区別すべき理由はありません。
 民法では、契約の成立に書面の作成が要件とされている場合(書面主義)は少ない〔原則として諾成主義(当事者の合意だけで契約の効力が生じるもの)〕ので、基本的には電子商取引と通常の取引とを区別すべき理由はありません。

(2) 例外
 宅地建物取引業法(宅地建物取引業者の書面交付義務)、訪問販売法(販売業者等の書面交付義務)、割賦販売法(割賦販売業者等の書面交付義務)等、それぞれの場合について、各法律は消費者保護が十分なされるよう書面の交付を義務づけているわけですが、一定の要件の下に電子書面の交付によっても書面の交付を受けた場合と同視できるものとして法改正が行われました。*
 また、ネット販売の拡大に伴い、旅行業法等についても、IT(情報技術)を推進するという目的から、紙による書類交付義務を免除する方向で、改正がなされました。

*電子化が容認される書面等については、「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」(IT書面一括法)を参照してください。なお、個々の法律の改正内容は、法令データ提供システムから調査したい個々の法律を検索してください。

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Q4.
電子商取引においては、いつ契約が成立したとみなされるのですか。
A4.
まず、契約の成立時期に関する民法等の規定は任意規定であることから、当事者間で合意のうえ、契約の成立時期を自由に定めることができますので、以下の記述は当事者間で契約の成立時期について合意がない場合についての説明になります。

民法の原則(隔地者間)(民法第97条第1項)
申込・・・到達主義(相手方に到達した時点で申込が効力を生ずるとする考え方)

 なお、「到達」とは、申込が相手方の勢力範囲(支配権)内に入ったこと、すなわち相手方の了知可能な状態におかれたこと(相手方が実際に受領または了知することを要しません。)を意味します。従って、申込または承諾について、各受信者の契約しているプロバイダーのサーバーで受信者が読みとり可能な状態になったときは、一般的には「到達」したものと一応考えられます。

(1) 申込に承諾期間の定めがない場合(民法第526条第1項)
 承諾通知の発信により、承諾通知が申込者に到達しなくても契約は成立します。

 但し、商法では、商取引の円滑性と迅速性の要請から、商行為(営利活動に関する行為であり、商法等により商行為であると規定されている行為をいいます。)について、承諾期間の定めのない契約の申込の場合、相当の期間内(ケース・バイ・ケースですが、一般的には1〜2週間程度の場合が多いと思われます。)に承諾通知を発信しなければ、申込は効力を失うとされています。

 平成13年6月22日成立した「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」により、電子承諾通知については到達主義によることとされました。

(2) 申込に承諾期間の定めがある場合(民法第521条第2項)
 承諾通知が承諾期間内に申込者に到達しない限り、契約は成立しません(この場合、到達主義と同様の結果となります)。

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Q5.
ネットワークの事故で承諾通知が届かなかった場合、契約はどうなりますか。
A5.

民法の原則を前提として考えると、承諾期間の定めがない申込の場合、承諾通知が申込者に到達しなかったことのリスクは、申込者が負うことになる(契約が成立します)のに対し、承諾期間の定めがある申込の場合、承諾通知が承諾期間内に申込者に到達しなかったことのリスクは、承諾者が負うことになります(契約が不成立となります)。
なお、上記の結論では、事業者の承諾通知が申込者である消費者に届かなくても契約が成立してしまうことになるため、消費者に不利益となることから、電子商取引については、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」により、欧米と同様に承諾通知が申込者に届いた時点で契約が成立することになりました。また、同法により、その他クリックミス等錯誤成立の要件の明確化について契約ルールが構築されました。


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