第十四回 商法改正中間試案Y 会社の計算・開示関係

  今回は、中間試案の「会社の計算・開示関係」についてご紹介します。



20 資産評価等に関する規定の方法

(1) 会計帳簿における財産の価額の記載方法
株式会社の会計帳簿に記載すべき財産の価額については、第34条(資産の評価)の規定は、適用しないものとし、財産、繰延資産及び引当金の額並びに記載の方法は、法務省令で定めるものとする。(第285条ノ2から第287条ノ2までの規定は削除します。)

(2) 配当限度額の算定
第290条第1項第4号から第6号までの規定を削除し、法務省令で定める額を貸借対照表上の純資産額から控除するものとする。

(3) 中間配当限度額の算定
第293条ノ5第3項第3号から第5号までの規定を削除し、法務省令で定める額を最終の貸借対照表上の純資産額から控除するものとする。

(コメント)
 我が国では、商法と証券取引法という2つの法律が企業会計を規制しており、そのために、各会社が商法に基づく計算書類と証券取引法に基づく財務諸表との2種類の書類を作成しなければならず、会社の負担となっているとの指摘が経済界等からなされていました。この指摘に対応するためには、商法会計と証券取引法会計の調整の問題を解決する必要があり、これまでも商法の規定を改正するなどして個別的に対応してきましたが、国際的に整合性のある会計基準の確立が求められている現状からすれば、今後、資産の評価基準が変更され、商法がそれに速やかに対応することが要請されます。そこで、中間試案では、大会社を前提とした商法の立法技術的な限界、企業会計をめぐる国際的な動きの速さと法改正に要する時間とのギャップ等の問題を解決するため、商法中には、一般的な規定のみを置くこととし、商法中の資産の評価規定等を法務省令に委任することにより、その要請に対応しようとしました。これに伴い、配当限度額の算定および中間配当額の算定についての規定も、その一部を法務省令によって規定することとしています。なお、この点に関連し、証券取引法第24条の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出すべき株式会社(有価証券報告書提出義務会社)が2種類の計算書類を作成しなくてよいようにするという観点から、財務諸表等規則の定めに従い、貸借対照表および損益計算書を作成しなければならないものとすることが適当であるとの意見が出されています。

21 商法特例法上の大会社についての連結計算書類の導入(新設)


(1) 連結貸借対照表及び連結損益計算書の作成(作成の方法は、法務省令で定めます。)
大会社〔中間試案では、当分の間、証券取引法第24条第1項により、有価証券報告書を内閣総理大臣に提出すべき大会社(有価証券報告書提出会社)に限るのが適当とされています。〕は、毎決算期に連結貸借対照表及び連結損益計算書(連結附属明細書は除外しています。)を作り、取締役会の承認を得なければならないものとする。

(コメント)
証券取引法の基準と合わせることが適当であることから、法務省令において連結財務諸表の規定を適宜引用することとしています。

(2) 監査役及び会計監査人の監査

(イ) 監査役及び会計監査人の監査
  (1)の書類は、監査役及び会計監査人の監査を受けなければならないものとする。

(ロ) 監査役及び会計監査人の調査権
 大会社の監査役及び会計監査人は、その職務を行うために必要があるときは、(1)の書類に係る連結の範囲に含まれる子会社等に対して営業の報告(会計監査人の場合は会計に関する報告)を求め、又はその子会社等の業務及び財産の状況を調査することができるものとする。この場合において、その子会社等は、正当の理由があるときは、報告又は調査を拒否することができるものとする。

(ハ) 取織役の監査役会及び会計監査人への(1)の書類の提出期限
  取締役が(1)の書類を監査役会及び会計監査人に提出すべき期限は、定時総会の8週間前までとするものとする。ただし、監査役会及び会計監査人の同意を得た場合には、その期限を延長することができるものとする。

(ニ) 会計監査人の監査報告書
 会計監査人が(ロ)の規定により(1)の書類に係る連結の範囲に含まれる子会社等に対して会計に関する報告を求め、又はその子会社等の業務及び財産の状況を調査したときは、その方法及び結果(会計に関する部分に限る。)を監査報告書の記載事項とするものとする。

(ホ) 会計監査人の監査報告書の提出期限
  会計監査人は、商法特例法第13条第1項(会計監査人の監査報告書の提出期限。(1)の書類を受領した日から4週間以内。)の規定にかかわらず、監査役会及び取締役の同意を得て、監査報告書の提出の期限を延長することができるものとする。

(へ) 監査役会の監査報告書
  監査役が(ロ)の規定により(1)の書類に係る連結の範囲に含まれる子会社等に対し営業の報告を求め、又はその子会社等の業務及び財産の状況を調査したときは、その方法及び結果(会計に関する部分以外の部分に限る。)を監査報告書の記載事項とするものとする。

(ト) 監査役会の監査報告書の提出時期
  監査役会は、商法特例法第14条第2項(監査役会の監査報告書の提出期限。監査報告書を受領した日から1週間以内。)の規定にかかわらず、取締役の同意を得て、監査報告書の提出の期限を延長することができるものとする。

(3) 本店及び支店における備置き


(イ) 大会社は、本店及び支店において、(1)の書類を備え置かなければならないものとする。

(ロ) 株主及び会社の債権者は、(1)に掲げる書類の閲覧又は会社の定めた費用を支払ってその謄本著しくは抄本の交付を求めることができるものとする。

(ハ) 親会社の株主は、その権利を行使するために必要があるときは、裁判所の許可を得て子会社の(1)の書類の閲覧又は会社の定めた費用を支払ってその謄本若しくは抄本の交付を求めることができるものとする。

(4) 株主に対する送付
定時総会の招集の通知には、(1)の書類の謄本を添付しなければならないものとする。

(5) 株主総会における取扱い
取締役は、(1)の書類を定時総会に提出してその内容を報告しなければならないものとする。

(6) 公告
取締役は、(5)の報告のほか、第283条第1項の承認を得、又は商法特例法第16条第1項後段の報告をしたときは、遅滞なく(1)に掲げる書類又はその要旨を公告しなければならないものとする。

☆22 貸借対照表等の公開(新設)

☆この部分については、経済界からの強い要望を受けて、平成14年4月実施を目指します。

(1) 株式会社にあっては、定時総会終了後、所定の期間内に、法務省令で定めるところにより、貸借対照表及び損益計算書並びに監査報告書を提供しなければならないものとする。

(2) 何人でも、(1)の規定により提供された貸借対照表及び損益計算書並びに監査報告書につき、その提供後5年内は、法務省令で定めるところにより、閲覧等(インターネットを利用した方法を含みます。)を請求することができるものとする。

(3) 資本の額が5億円未満で、最終の貸借対照表の負債の部に計上した金額の合計が200億円未満の会社にあっては、取締役は第283条第3項(貸借対照表またはその要旨)の規定による公告を省略することができるものとする。

(コメント)
決算公告のインターネット利用を認めたことについては、日本新聞協会広告委員会が反対する見解を発表しています。以下は、その理由です。
(1)インターネットの普及は年齢や地域によって差が大きいうえ、ハッカーなどにより貸借対照表の数字が改ざんされる危険性が高い。
(2)自社のホームページを利用した公告は、客観性、信頼性が担保されない。
(3)脱法状態となっている中小企業に公告を促すことにつながらない。





Back to Index



お問合せは電話でお願いします。
なお、当法律事務所では、メールによる法律相談は行っておりません。
Copyright(C)2000 Iizuka Toshinori Law Office, All rights reserved.