第十二回 商法改正中間試案W 会社の機関関係(1)

  今回から中間試案の会社の機関関係についてご紹介します。



9 株主提案権の行使期限の繰上げ等

(1) 株主の議題等提案権

(イ) 6か月前から引き続き発行済株式の総数の100分の1以上に当たる株式又は300株以上の株式を有する株主は、取締役に対し、会日より8週間前(現行法は6週間前)に、書面をもって、一定の事項を総会の会議の目的とすべきことを請求することができるものとする。
(ロ) (イ)の株主は、取締役に対し、会日より8週間前(現行法は6週間前)に、書面をもって、会議の目的たる事項につき、その株主の提出すべき議案の要領を第232条に定める通知(株主総会招集通知)に記載することを請求することができるものとする。

(2) 少数株主の招集権 第237条第1項の請求があった後遅滞なく総会招集の手続がされなかったときは、請求をした株主は、裁判所の許可を得て、その招集をすることができるものとする。その請求があった日から8週間内(現行法は6週間内)の日を会日とする総会の招集の通知が発せられなかったときも、同じものとする。

10 株主総会等の特別決議の定足数の緩和

(1) 株主総会の決議

(イ) 第342条第1項(定款の変更)の決議は、発行済株式の総数の過半数に当たる株式を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上に当たる多数をもってこれを行うものとする。
(ロ) (イ)の決議については、総会に出席を要する株主の有すべき株式の数は、定款をもって、別段の定めをすることを妨げないものとする。ただし、これを発行済株式の総数の3分の1未満に下げることはできないものとする。

(2) 社債権者集会の決議
 社債権者集会の決議は、出席した社債権者の議決権の過半数をもって行うものとする。ただし、第309条ノ2第1項、第319条、第329条第1項、第330条第1項ただし書及び第333条に規定する社債権者集会の目的たる事項の決議については、社債総額の3分の1以上に当たる社債を有する社債権者が出席し、その議決権の3分の2以上の多数をもって行うものとする。

(コメント)
 中間試案では、下線部分を追加または変更しました。株主総会の特別決議の定足数については、実務上、株主分散化等により定足数を充足することが困難になってきたことから、中間試案で
は、定足数を発行済株式総数の過半数としている現行法を維持しながら、一定の制限の範囲内で、定款により、定足数を定めることができるものとしました。社債権者集会の決議に関する第324但書の規定する事項の決議についても、定足数を社債総額の3分の1とするものとしました。  

11 子会社の株式の譲渡等(新設)

(1) 会社は、その有する重要な子会社の株式の全部を譲渡し、又は他の株式会社の株式全部を譲り受ける場合には、会社の株主総会の特別決議を得なければならないものとする。

(2) (1)の株式の譲渡又は譲受けに反対の株主には、株式買取請求権を認めるものとする。

(コメント)
  子会社は、親会社の営業の一部と同視できる場合があることから、中間試案では、親会社が保有する重要な子会社の株式の全部を譲渡することについては、会社がその営業を譲渡するのと同様の規制を受けることとするものです。また、中間試案では簡易の営業全部譲受け(第245条ノ5)に相当する規定を置くこととしています。この部分については、経団連から、特別決議事項とすることは、企業再編、事業再構築の機動性を大きく損なうとして反対意見が提出されています。

12 株主総会招集手続の簡素化等

(1) 株主総会招集手続の簡素化

  総会は、総株主の同意があるときは、招集の手続を経ずに開くことができるものとする。

(2) 株主総会招集通知の発出期間の短縮

 総会を招集するには、会日より2週間前に各株主に対してその通知を発しなければならないものとする。ただし、その期間は、定款をもって、1週間まで短縮することを妨げないものとする。

(3) 書面による株主総会決議

 総会の決議をすべき場合において、総株主の同意があるときは、書面による決議をすることができるものとする。

(4) 書面による取締役会決議

 株式会社は、定款をもって、取締役会の決議をすべき場合において、各取締役及び各監査役の同意があるときは、書面による決議をすることができることを定めることができるものとする

(コメント)
 中間試案では、下線部分を追加しました。中間試案は、商法の規定が株主間の利害の調整だけを問題とするものであるときは株主間契約により、商法の規制を排除することができるとの基本的な立場に立つことを明確にしたものです。また、@定款変更の要件につき総株主の同意を要するものとすべきかどうか、A決議の効力要件として、例えば取締役全員の賛成を要するとすべきかどうか、B登記事項とすべきかどうか、C監査役会決議についても同様の取扱いを認めることとすべきかどうかについては、なお検討することになっています。

13 取締役の報酬規制

 取締役の報酬として、5の(10)の(ロ)の決議のある新株引受権(ストック・オプションの場合)または株式の時価、利益の額その他の数値に基づいて算定される額に相当する金銭その他の財産を取得できることとなる権利を与えるべき場合においては、第269条(取締役の報酬)の規定にかかわらず、株主総会においてその内容を定めることをもって足りるものとする。この場合においては、その報酬を相当とする理由を開示しなければならないものとする。

(コメント)
 取締役に対してストック・オプション等の金銭以外の業績連動型の報酬を与えるときは、株主総会の決議時点において確定的な金額を定めることが困難であり、現行の第269条によっては適切な規制をすることができません。そこで、中間試案では、株主総会において、業績連動型の報酬を与えるときは、報酬の内容を定めることとし、かつ、その報酬を相当とする理由を開示しなければならないこととしています。また、参考書類の内容として、「報酬案作成の方針」を含めるものとします〔参考書類規則第3条第1項(会社提案の場合の記載事項)の改正〕。

14 経営委員会制度(新設)

(1) 設置
  株式会社は、定款の定め又は取締役会の決議により、経営委員会を置くことができるものとする。

(2) 構成
  経営委員会は、取締役の一部をもって組織し、これを組織する取締役は、取締役会の決議によって定めるものとする。

(3) 権限
  経営委員会は、法令又は定款に別段の定めがある場合にはその定めによるほか、一定の事項について、取締役会の委託により、株式会社の業務執行を決定するものとする。

(4) 運営

(イ) 経営委員会が決定した事項は、取締役会に報告しなければならないものとする。
(ロ) 経営委員会の議事録については、取締役及び監査役は、これを閲覧することができるものとする。
(ハ) 第259条から第259条ノ3まで及び第260条ノ2から第260条ノ4まで(取締役会)の規定は、経営委員会に準用するものとする。

(コメント)
 現在の取締役会は、取締役の人数が多く、機動的に取締役会を開催することができないことが従来から指摘されており、そのため、実務上、常務会などと呼ばれる非公式の会議が行われる場合が多くなっています。中間試案では、法定の機関として、一定の事項について業務執行の意思決定権限を有する経営委員会を設置することができるようにしたうえで、経営委員会を取締役会の監督の下に置くことにより、この問題に対応しました。

15 株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下「商法特例法」という。)上の大会社についての社外取締役の選任義務(新設)

(1) 取締役のうち1人以上は、その就任の前、大会社又はその子会社の業務を執行する取締役若しくは支配人その他の使用人でなかった者でなければならないものとする。
(2) (1)に規定する者は、大会社又はその子会社の業務を執行する取締役若しくは支配人その他の使用人を兼ねることができないものとする。
(3) (1)に規定する者については、第266条第2項(賛成取締役)及び第3項(異議を止めざりし取締役)の規定は、適用しないものとする。

(コメント)
 現在の取締役会は、取締役会が代表取締役の支配下にあり、十分な監督ができていないとの指摘がなされていることから、この問題に対処するため、大会社に1人以上の社外取締役の選任を義務づけました。しかしながら、社外取締役に現行の取締役の責任規定をそのまま適用することは厳格すぎ、社外取締役を得ることの障害となっていると指摘されていることから、社外取締役の責任を制限するものです。この部分については、経団連から、社外取締役を義務化することは、自社の経営理念に基づき、自社にふさわしいコーポレート・ガバナンスを構築し、市場においてその評価を受けることを阻害するものとして、反対意見が提出されています。なお、日本経済新聞の平成13年6月16日朝刊の報道によると、東証1部上場企業の内、社外取締役を「すでに選任している」、および「選任することを検討している」企業が60%以上に及んでいるとのことです。

 社外取締役の選任義務については、経済界の反対が多いため、「重要財産等委員会」制度の導入が商法改正案に盛り込まれています。

16 商法特例法上の大会社以外の株式会社における会計監査人による監査(新設)

(1) 大会社以外の株式会社で資本の額が1億円を超えるものは、定款で、商法特例法第2条第1項の書類について、会計監査人の監査を受ける旨を定めることができるものとする。
(2) 商法特例法第3条から第20条まで並びに本中間試案15、17から19まで及び第21の規定は、(1)の規定により会計監査人の監査を受ける旨を定めた株式会社について準用するものとする。

17 会計監査人の会社に対する責任についての株主代表訴訟(新設)

  第266条第5項及び第267条から第268条ノ3までの規定は、商法特例法第9条の会計監査人の責任に準用するものとする。

18 商法特例法上の大会社の利益処分案等の確定等(新設)

(1) 大会社における利益処分案の確定

(イ) 各会計監査人の監査報告書に商法特例法第13条第2項の規定による第281条ノ3第2項第3号に掲げる事項の記載及び同項第7号に掲げる事項につき議案が法令及び定款に適合する旨の記載があり、かつ、監査役会の監査報告書にこれらの事項についての会計監査人の監査の結果を相当でないと認めた旨及び商法特例法14条第3項の規定による第281条ノ3第2項第8号(利益の処分または損失の処理が著しく不当な場合)に掲げる事項につき議案が著しく不当である旨の記載(各監査役の意見の付記を含む。)がないときは、第283条第1項(計算書類の報告、承認)及び第293条ノ2(利益の資本組み入れ)の規定にかかわらず、取締役は、第281条第1項第1号(貸借対照表)及び第2号(損益計算書)に掲げる書類については定時総会の承認を求めることを要せず、同項第4号(利益処分・損失処理案)に掲げる書類についてはその承認を得たものとみなすものとする。この場合においては、取締役は、定時総会に確定したこれらの書類を提出し、その内容(同項第4号の書類については、その内容のほか、利益の配当を行うに当たっての方針、損失回復についての見込みその他法務省令で定める事項を含む。)を報告しなければならないものとする。
(ロ) 取締役は、第283条第1項の承認を得たとき又は(イ)の前段に規定するときは、遅滞なく、確定した第281条第1項第1号、第2号及び第4号に掲げる書類の内容又はその要旨を公告しなければならないものとする。

(2) 大会社における取締役の任期

  大会社の取締役の任期は、就任後最初の決算期に関する定時総会の終結の日までとする。

(コメント)
 利益処分を取締役会の権限事項とすることに伴い、株主による取締役に対するガバナンスを強化する必要があると考えられることから、中間試案では、取締役の任期を次の決算期に関する定時総会の終結の日までとしました。この部分については、経団連から、取締役の任期の短縮は、経営者が短期的成果のみを重視したり、取締役会の経営監視機能の低下を招いたりするおそれがあるとして、反対意見が提出されています。
 





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