6 株券の不発行制度
(1) 株券の不発行の定め
(イ) 会社は、定款で、株券を発行しない旨を定めることができるものとする。
(コメント)
中間試案は、すべての会社について、実務の要望に応える形で、株主の請求を受けても株券の発行または返還を行わないという株券不発行制度を採用することができるようにしました。また、譲渡制限会社以外の会社が株券不発行制度を採用する場合には、その株主が振替制度を利用する機会を保障しなければならないこととしています。
(ロ) (イ)の定めをするために定款の変更の決議をした場合においては、会社は、株券を発行しない旨の定款の定めをした旨並びに一定の日までに株券を会社に提出すべき旨及びその一定の日において株券は無効となる旨をその一定の日の1か月前に公告し、かつ、株主及び株主名簿に記載のある質権者に各別に通知しなければならないものとする。
(ハ) (イ)の定めの設定は、(ロ)の一定の日において効力を生ずるものとする。
(ニ) 第216条(株券等提出不能の場合の手続)の規定は、(ロ)の場合に準用するものとする。この場合において、同条第1項中「新株券ヲ交付スルコト」とあるのは、「其ノ旧株券ヲ提出スルコト能ハザル者ノ氏名及住所ヲ株主名簿ニ記載スルコト」とするものとする。
(コメント)
既存の会社が定款を変更して株券の不発行制度を採用する場合には、株式の併合の場合の手続と同様の手続によることとしています。
(2) 株式の譲渡方法及び名義書換
(イ) 株式を譲渡するには、株券を交付しなければならないものとする。ただし、(1)の(イ)の定めがある会社(株券不発行会社)の株式については、この限りでないものとする。
(ロ) (1)の(イ)の定めがある会社の株式の移転は、取得者の氏名及び住所を株主名簿に記載しなければ、会社のほか、その他の第三者にも対抗することができないものとする(有限会社法第20条と同様の規定です)。
(ハ) (1)の(イ)の定めがある会社の株式についての株主名簿の名義の書換は、次のいずれかの場合でなければ、することができないものとする。
(a)株主名簿に株主として記載された者と取得者が共同して請求したとき。
(b)取得者が、株主名簿に株主として記載された者からの当該株式の取得を証する判決、判決と同一の効力を有するもの又は公正証書を添付して請求したとき。
(c)当該株式の取得原因が相続である場合において、取得者が、相続を証する市町村長着しくは区長の書面又はこれを証するに足るべき書面を添付して請求したとき。
(d)当該株式の取得原因が合併である場合において、取得者が当該事実を証する登記簿の謄本又は抄本を添付して請求したとき。
(ニ) 第224条(株主に対する通知)の規定は、(1)の(イ)の定めがある会社の株式(株券不発行の場合)については、(ハ)の規定により株主名簿の名義の書換をした場合に限り、適用するものとする。
(3) 株券不発行の場合の売渡請求等の特例
(イ) (1)の(イ)の定めをした会社の株主が、第204条ノ3第1項(被指定者による株式の受渡請求)の請求を受けたときは、同条第4項の規定にかかわらず、1週間以内に同条第1項の請求をした者に譲渡する旨をその者及び会社に通知しなければならないものとする。この場合における同条第5項の規定の適用については、同項中「前項ノ供託ガ同項ノ期間内ニ」とあるのは、「(3)の(イ)の通知が(3)の(イ)の期間内に」とする。
(ロ) 会社が(イ)の通知を受けたときは、(2)の(ハ)の規定にかかわらず、第204条の3第1項の請求をした者の氏名及び住所を記載しなければならない。
(4) 株券の不発行の定めに伴う所要の手当
(イ) 株券発行前の株式の譲渡
株券の発行前にした株式の譲渡は会社に対しその効力を生じないものとする。ただし、(1)の(イ)の定めをした会社の株式については、この限りでないものとする。
(ロ) 登録質(略式質の設定はすることができません。)
第209条第1項(株式の登録質)の質権者は、会社に対し第208条(質権の効力)の株主の受けるべき株券の引渡しを請求することができる。ただし、(1)の(イ)の定めをした会社の株式については、この限りでないものとする。
(ハ) 転換株式の転換請求
(1)の(イ)の定め(株券不発行の定め)をした会社の株式の転換を請求する場合においては、株券を添付することを要しないものとする。
(ニ) 名薄閉鎖期間の設定
(1)の(イ)の定めをした会社は、第224条ノ3第1項(株主名簿の閉鎖)の期間を定めることはできないものとする。
(コメント)
株券不発行会社の場合、名義書換が第三者対抗要件になりますから、株主が名義書換自体を行うことができないことは妥当ではありません。また、株券不発行会社の場合、権利行使株主の確定が基準日によって可能であることから、中間試案では株主名簿の閉鎖ができないことにしました。
(ホ) 反対株主の買取請求
(1)の(イ)の定めをしていない会社の株式の代金の支払は、株券と引換えにしなければならないものとする。株式の移転は代金の支払いのときにその効力を生じるものとする。
(へ) 各種公告制度の適用除外等
(a)(1)の(イ)の定めをした会社は、株式併合の際の公告(第215条第1項)及び完全子会社となる場合の公告(第359条、第368条)をすることを要しないものとする。
(b)(1)の(イ)の定めをした会社は、株式分割の際の公告(第219条第1項)、株主割当の際の公告(第280条ノ4第2項〔第341条ノ2ノ4第2項及び第341条ノ18において準用する場合を含む。)〕及び会社分割の株券提出不要時の公告〔第374条ノ7第1項(第374条ノ31第5項において準用する場合を含む。)〕をすることを要しないものとする。
(c)(1)の(イ)の定めをした会社は、新株引受権及び転換社債で未行使のものがないときは、株主への通知をもって基準日の公告(第224条32第4項)に代えることができるものとする。
(コメント)
株券不発行会社の場合、株式の取得者としては、取得後直ちに対抗要件である名義書換をすることになると考えられるので、中間試案は、公告をして名義書換を促す必要がないと考えています。
7 株券失効制度の創設〔今後、第216条(提出不能株券を有する株主への新株券の交付)および第230条(除権判決)の制度は廃止の方向で検討されます。〕
(1) 株券喪失登録の申出
(イ) 株券を喪失した者は、会社(名義書換代理人を置いているときは、名義書換代理人)に対し、書面により喪失登録の申出をすることができるものとする。
(ロ) (イ)の申出書には、申出をした者(以下「申出人」という。)の住所及び株券の番号を記載し、申出人は署名しなければならないものとする。この場合において、申出人が株主名簿上の株主でないときは、その者の印鑑証明書を添付しなければならないものとする。
(2) 喪失株券登録簿
(イ) 会社は、喪失登録の申出を受けたときは、遅滞なく、喪失株券登録簿に上記事項を記載しなければならないものとする。
(a)株券の番号
(b)申出人の氏名及び住所
(c)株主名簿上の株主の氏名及び住所
(d)喪失登録の日
(ロ) 喪失登録の効力は、喪失株券登録簿に喪失登録がされた日の翌日から生ずるものとする。
(ハ) 株主名簿上の株主以外の者による申出に基づく喪失登録の効力が生じたときは、会社は、その株券の株主名簿上の株主に対して、喪失登録の効力が生じた旨及びその株券が失効すべき日を通知しなければならないものとする。
(3) 喪失株券登録簿の備置き等
(イ) 会社は、喪失株券登録簿を本店に備え置かなければならないものとする。ただし、名義書換代理人を置いているときは、喪失株券登録簿は、名義書換代理人の営業所に備え置くものとする。
(ロ) 何人も、営業時間内は、(イ)の喪失株券登録簿の閲覧又は謄写を求めることができるものとする。
(4) 喪失登録株券に係る通知義務
喪失登録の効力が生じた場合において、会社又は株券の売買(その媒介、取次ぎ又は代理を含む。)を業とする者が喪失登録のされた株券の呈示を受けたときは、その者は、呈示をした者に対し、その株券につき喪失登録がされている旨を通知しなければならないものとする。
(5) 喪失登録株券に係る権利の届出
(イ) 喪失登録がされている株券が呈示されて権利の届出がされたときは、喪失登録は、その効力を失うものとする。この場合において、喪失登録の申出人又はその株券の株主名簿上の株主以外の者が届出をするには、その者の印鑑証明書を添付しなければならないものとする。
(ロ) (イ)の届出がされたときは、会社は、喪失登録を抹消し、かつ、喪失登録の申出人に対し、権利の届出により喪失登録が効力を失った旨並びに権利の届出人の氏名及び住所を通知しなければならないものとする(喪失登録がされている株券)。
(6) 喪失登録株券の失効
(イ) 喪失登録されている株券は、(5)の(ロ)の場合を除き、喪失登録の効力が生じた日から2年を経過した日に、失効するものとする。この場合において、会社は、喪失登録簿にその株券が失効した旨を記載しなければならないものとする。
(ロ) (イ)の規定により株券が失効した後でなければ、喪失登録の申出人は、株券の再発行を請求することができないものとする。
(コメント)
現行の公示催告・除権判決制度については、公示催告のされた株券について善意取得を阻止することができず、費用をかけて公示催告手続をとった株券喪失者の保護が不十分です。また、公示催告手続と喪失株券による権利行使(名義書換請求)とが別個の手続でなされ、両者の間に関連性がないことから、名義書換請求がされ株券の存在が明らかになっても、当然には公示催告および除権判決の手続が停止されないため、その株券についての除権判決がされ、株券の効力が失われてしまうという結果が生じるという問題もあります。そこで、中間試案は、現行の公示催告・除権判決の制度に代わる会社への届け出による株券失効制度を採用したものです。
8 所在不明株主の株式売却制度等の創設
(1) 会社は、取締役会の決議により、第224条ノ2第1項(所在不明株主)の規定により通知及び催告を要しない株主の株式を競売することができるものとする(所在不明株主の株式について株券が発行されているときは、まず会社が株券失効制度を利用して株券を失効させ、その上で、株式売却制度を利用することとしています。)。この場合においては、その代金を従前の株主に交付しなければならないものとする。
(2) 会社は、(1)の株式を競売する日の3か月前に、競売する株式についての第223条(株主名簿の記載事項)第1号から第3号までに掲げる事項及び競売する日を公告しなければならないものとする。
(3) 会社は、(1)の競売に代えて、市場価格ある株式についてはその価格をもって売却し、又は買受け、市場価格のない株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により売却することができるものとする。
(4) (3)の場合において、売買価格が第204条ノ3ノ2(会社による売渡請求)第5項の規定により算定した額を超えるときは、会社はその株式を買い受けることはできないものとする。
(コメント)
現行法上、会社は、所在不明株主に対する通知および催告の義務は免除されていますが、株主としての管理を行わなければならないことから、会社に過重な負担を強いています。また、所在不明株主が増加し、議決権を行使しない株式の数が増加しているという問題もあります。中間試案は、これらの問題に対応しようとするものです。
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