第九回 商法改正中間試案T 株式関係(1)

  平成13年4月18日、法務省民事局参事官室が、「商法等の一部を改正する法律案要綱中間試案」を公表しました。今後、パブリック・コメントの結果等を踏まえ、(1)平成13年秋、自己株式取得の見直し(金庫株解禁)、株式単位の見直し等、(2)平成14年、会社法制の大幅な見直しをそれぞれ内容とする商法改正法案が国会で審議される予定です。今回は、中間試案の株式関係(1)の内容の一部をご紹介し、以下、順次、中間試案の内容についてご紹介します。




☆1.授権株式数に係る制限の緩和及び新株発行規制の見直し

☆この部分については、経済界からの強い要望を受けて、平成14年4月実施を目指します。

(1)譲渡制限会社の授権株式数に係る制限の緩和

(イ) 設立時の制限
 会社の設立に際して発行する株式の総数は、会社が発行する株式の総数の4分の1を下ることはできないものとする(現行の第166条第3項)。ただし、株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定款の定めがある会社においては、この限りでないものとする。
(ロ) 定款変更時の制限
 会社が発行する株式の総数は、発行済株式の総数の4倍を超えて増加することはできないものとする(現行の第347号)。ただし、株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定款の定めがある会社においては、この限りでないものとする。

(コメント)
 中間試案では、下線部分が追加されましたが、譲渡制限会社においては、株主割当による場合を除いて、新株発行に株主総会の特別決議が必要とされていることから、株主の保護がなされているとして、制限が緩和されたものです。

(2) 新株発行規制の見直し

(イ) 株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定款の定めがある場合において、新株を発行するときは、発行することができる株式の額面無額面の別、種類及び数について、第343条(特別決議)に定める決議がなければならないものとする。ただし、株主に新株の引受権を与える場合は、この限りでないものとする。
(ロ) 株主以外の者に対して、発行済株式の総数の一定の比率(例えば、5分の1)を超える新株を発行するときは、発行することができる株式の額面無額面の別、種類及び数について、第343条に定める決議がなければならないものとする(この部分については、企業に資金調達、債権支援、事業再編の機動性を著しく損ない、経営の選択肢を狭めるものであるとして、経団連が反対しています)。
(ハ) 第280条ノ2第3項(議案の要領)及び第4項(有利発行の決議の効力期限)の規定は、(イ)及び(ロ)の場合に準用するものとする。

(コメント)
 既存株主の持ち株比率の大幅な低下をもたらす大量の新株発行が取締役会の決議のみで可能であることは、株主の保護の観点から問題があることから、中間試案では対応策が考えられました。

☆2.数種の株式

☆この部分については、経済界からの強い要望を受けて、平成14年4月実施を目指します。


(1)会社は、利益若しくは利息の配当、残余財産の分配、利益を持ってする株式の消却(現行の第222条第1項)又は議決権の有無(中間試案追加部分。現行の第242条第1項は配当優先株式についてのみ議決権なき株式を認めています。)について内容の異なる数種の株式を発行することができるものとする。

(2)(1)の場合においては、定款で、各種の株式の内容及び数を定めなければならないものとする。ただし、利益の配当について内容の異なる種類の株式の内容のうち配当すべき額については、その算定の方法のみを定めることで足りるものとする。

(コメント)
  トラッキング・ストック(特定の事業部門または特定の子会社の業績・価値と連動するよう設計された親会社発行株式)の発行に関して、現行法では、配当額についてどこまで定款に記載すべきか明らかでないこと、単に配当の上限額や確定額を記載するだけではその株式がどのような性質のものかが明らかにならないこと等の問題点があるため、これについての対応策です。

(3)(1) の規定により議決権なき種類の株式を発行する場合においては、定款で、その株主が議決権を有することとなる条件又は特定の事項につき議決権を行使することができる旨を定めることができるものとする。

(4) 議決権なき種類の株式の総数は、発行済株式総数の2分の1を超えることはできないものとする。

(5)(1)の場合においては、本法(商法)または定款の定めにより株主総会又は取締役会において決議すべき事項について、定款で、その決議のほかにある種類の株主の総会の決議を要する事項を定めることができるものとする。ただし、下記事項(拒否権を与えることが適当ではないもの−追加すべき事項がないかどうかは、今後、検討することになっています。)については、この限りでないものとする。

(イ) 第237条第3項(少数株主による株主総会の招集)及び第238条(計算書類等の調査)の規定による検査役の選任
(ロ) 取締役の選任及び解任
(ハ) 監査役及び会計監査人の解任
(ニ) 株式の譲渡に関する取締役会の承認
(ホ) 会社の清算に関する事項

(ヘ) 株主総会に関する規定は、(5)の総会に準用するものとする。

(コメント)
特定の種類の株主に特定事項の拒否権を認めるものです。
(例)
    (1)ベンチャー企業において、ベンチャー・キャピタルが、創業者グループ(多数派株主)の恣意による経営を防止するため、新株発行、合併等の重要事項について、株主間の契約で拒否権を設定するケース。
    (2)トラッキング・ストックについて、対象事業部門の売却、清算等、対象事業の実質がなくなる場合等に拒否権を設定するケース。

3.
 転換株式

(1) 転換の効力発生


(イ)転換は、その請求をした時にその効力を生じるものとする。
(ロ)第224条ノ3第1項の期間(株主名簿の閉鎖期間)内に株式の転換の請求があったとき(現行の第222条ノ5第3項は削除)は、議決権については、その期間満了の時に転換があったものとみなすものとする。
(ハ) 会社が総会において議決権を行使すべき株主を定めるため第224条ノ3第1項の規定により定めた一定の日(基準日)の後に株式の転換の請求があったときは、議決権については、その総会の終結の時に転換があったものとみなすものとする。

(2)一斉転換条項

(イ) 会社が数種の株式を発行する場合においては、定款で、(この部分について、経団連は、自由度を確保するうえで、取締役会決議とすべきであると主張しています。)ある種類の株式を他の種類の株式に転換する旨を定めることができるものとする。この場合においては、定款で、下記事項を定めなければならないものとする。
(a)転換をすべき事由
(b) 転換により発行する株式の内容
(c)転換の条件
(d)利益又は利息の配当については、転換をしたときの属する営業年度又はその前営業年度の終わりにおいて転換があったものとみなすこと
(ロ)(イ)の場合においては、株式申込証又は新株引受権証書に、他の種類の株式に転換する旨及び(イ)の(a)から(c)までに掲げる事項を掲げなければならないものとする。

(3)第222条ノ2第3項(転換株式の留保)、第222条ノ3(転換による株式の発行価額)、第222条ノ7(転換による変更登記)並びに(1)の(ロ)及び(ハ)の規定は、(イ)の規定による定款の定めがある株式に準用するものとする。

(コメント)
 転換株式について、転換社債に関する第341条ノ6第1項(閉鎖期間中に転換により発行された株式の議決権)と同様の考え方を採用した試案です。

4.種類株主の取締役の選解任権


(1)株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定款の定めがあり、かつ、会社が数種の株式を発行している場合においては、第254条第1項(取締役の選任)の規定にかかわらず、定款で、ある種類の株主の総会において1人又は数人の取締役を選任することができる旨を定めることができるものとする。この場合において、2つ以上の種類の株主が共同してその総会により選任することを定めることを妨げないものとする。

(2)(1)の場合においては、定款で、取締役の総数及び各種類の株主の総会において選任する取締役の数を定めなければならないものとする。

(3)ある種類の株主の総会において選任された取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、第257条第1項本文(取締役の解任)の規定にかかわらず、その種類の株主の総会においてのみ解任することができるものとする。ただし、その種類の株式の全部が消却又は転換された場合は、この限りでないものとする。

(4)ある種類の株主の総会において選任された取締役の職務遂行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があるときは、第257条第3項の規定(株主総会における取締役の解任否決が請求の要件とされています。)にかかわらず、6カ月前より引き続き発行済株式の総数の100の3以上に当たる株式を有する株主は、その取締役の解任を裁判所に請求することができるものとする。第88条(管轄裁判所)の規定は、この場合に準用するものとする。

(5)会社が、定款を変更して株式の譲渡について取締役会の承認を要しないものとした ときは、(1)の規定により選任された取締役の任期は、第256条第1項(2年)及び第2項(1年)の規定にかかわらず、その時に満了したものとみなす。

(6)株主総会に関する規定及び第256条ノ2(選任決議の定足数)の規定は(1)の総会に、第257条第1項ただし書(解任取締役の損害賠償請求)の規定は(3)の規定により解任した取締役に、株主総会に関する規定及び第345条第2項(特別決議)の規定は(3)の総会に準用するものとする。

(コメント)
 譲渡制限会社が数種の株式を発行している場合、ある種類の株主の総会において、1
人または数人の取締役を選任できるようにするものです。ベンチャー・キャピタルが取締役会に取締役を送り込んだり、または合弁企業において各出資企業が出資割合や事業への関与の度合いに応じてそれぞれ取締役を選任できるようにするために現在行われている株主間契約の内容を実質的に実現しようというものであり、少数株主を保護しようとした規定です。





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