第七回 労働契約の承継

 最後に、労働者を保護するために新たに制定された「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」の概要を見てみます(以下、条文数は会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律のものです。)



1.
労働者等への通知(第2条)→労働者等に対する事前開示

(1) 分割会社(株式会社および有限会社)は、分割計画書(分割契約書)を承認する株主総会〔社員総会(有限会社の場合)〕の会日の2週間前までに、その会社が雇用する労働者のうち、
(a)
1)設立会社等に承継される営業に主として従事する者として労働省令で定めるもの
2)分割計画書等にその者が当該会社との間で締結している労働契約を設立会社等が承継する旨の記載があるもの
に対し、
(b)

1)設立会社等が承継する旨の当該分割計画書等中の記載の有無
2)第4条第1項(労働者の異議申立)に規定する期限日
3)その他労働省令で定める事項 を書面により通知しなければなりません(第1項)。
(2) 分割会社は、労働組合との間で労働協約を締結しているときは、当該労働組合に対し、分割計画書等を承認する株主総会等の会日の2週間前までに
1)労働協約を設立会社等が承継する旨の分割計画書等中の記載の有無
2)その他労働省令で定める事項
を書面により通知しなければなりません(第2項)。
(3) 商法第374条ノ6第1項(新設分割の簡易な分割)〔第二回10−(1)〕および第374条ノ22第1項(吸収分割の分割会社における簡易な分割)〔第四回−13−(1)〕の場合(1)の「を承認する株主総会(社員総会)の会日の2週間前までに」、(2)の「を承認する株主総会等の会日の2週間前までに」→「が作成された日から起算して2週間以内に」とします(第3項)。




2.
営業に主として従事する労働者に係る労働契約の承継

(1) 分割計画書等に設立会社等が承継する旨の記載があるもの(第3条)
分割の効力が生じた時に、設立会社等に承継されます。
(2) 分割計画書等にその者が分割会社との間で締結している労働契約を設立会社等が承継する旨の記載がないもの(第4条)。
1) 営業に主として従事する労働者〔第七回−1.−(1)−(a)−1)〕は、第2条第1項〔第七回−1.−(1)〕の通知がなされた日から分割会社が定める日(分割会社が作成した分割計画書等を承認する株主総会の会日の2週間前の日から会日の前日までの日に限ります。)(期限日)までの間に、分割会社に対し、労働契約が設立会社等に承継されないことについて、書面により、異議を申し出ることができます(第1項)。
2) 分割会社は、期限日を定めるときは、1)の通知がなされた日と期限日との間に少なくとも13日間を置かなければなりません(第2項)。
3) 商法第374条ノ6第1項(新設分割の簡易な分割)〔第二回−10−(1)〕および第374条ノ22第1項(吸収分割の分割会社における簡易な分割)〔第四回−13−(1)〕の場合 「当 該分割会社が作成した分割計画書等を承認する株主総会等の会日の2週間前の日から当 該会日の前日までの日」→「新設分割にあっては商法第374第2項第8号〔第二回−1-(8)〕に該当する日の前日までの日、吸収分割にあっては同法第374条ノ17第2項第9号〔第四回−1−(9)〕に該当する日の前日までの日」とします(第3項)。
4) 1)に規定する労働者が異議を申し出たときは、商法第374条ノ10第1項〔第三回−2−(1)〕(有限会社法第63条ノ6第1項において準用する場合を含む。)または商法第374条ノ26第1項〔第五回−2−(1)〕(有限会社法第63条ノ9第1項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、労働者が分割会社との間で締結している労働契約は、分割計画書等に係る分割の効力が生じた時に、設立会社等に承継されます(第4項)。



3.
その他の労働者に係る労働契約の承継(第5条)
(1) 分割計画書等の承継する旨の記載がある労働者〔第七回−1.−(1)−(a)−2)〕は、1の(1)の通知がされた日から期限日までの間に、分割会社に対し、労働者が分割会社との間で締結している労働契約が設立会社等に承継されることについて、書面により、異議を申し出ることができます(第1項)。
(2) 第4条第2項および第3項の規定〔第七回−2.−2)、3)〕は、前項の場合について準用します(第2項)。
(3) (1)に規定する労働者が(1)の異議を申し出たときは、商法第374条ノ10第1項(有限会社法第63条ノ6第1項において準用する場合を含む。)または商法第374条ノ26第1項(有限会社法第63条ノ9第1項において準用する場合を含む。)の規定に関わらず、当該労働者が分割会社との間で締結している労働契約は、設立会社等に承継されません(第3項)。



4.
労働協約の承継等(第6条)

(1) 分割会社は、分割計画書等に、当該分割会社と労働組合との間で締結されている労働協 約のうち設立会社等が承継する部分を記載することができます(第1項)。
(2) 分割会社と労働組合との間で締結されている労働協約に、労働組合法第16条(労働協約に 定める基準の効力)の基準以外の部分が定められている場合、当該部分の全部または一部に ついて分割会社と労働組合との間で分割計画書等の記載に従い、設立会社等に承継させる旨の合意があったときは、合意に係る部分は、商法第374条ノ10第1項〔第三回−2−(1)〕(有限会社法第63条ノ6第1項において準用する場合を含む。)または商法第374条ノ26第1項〔第五回−2−(1)〕(有限会社法第63条ノ9第1項において準用する場合を含む。)の規定により、分割計画書等の記載に従い、分割の効力が生じた時に、設立会社等に承継されます(第2項)。
(3) (2)に定めるもののほか、分割会社と労働組合との間で締結されている労働協約については 労働組合の組合員である労働者と分割会社との間で締結されている労働契約が設立会社等に承継されるときは、商法第374条ノ10第1項〔第三回−2−(1)〕(有限会社法第63条ノ6第1項において準用する場合を含む。)または商法第374条ノ26第1項〔第五回−2−(1)〕(有限会社法第63条ノ9第1項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、分割の効力が生じた時に、設立会社等と労働組合との間で労働協約(前項に規定する合意に係る部分を除く。)と同一の内容の労働協約が締結されたものとみなします(第3項)。



5.
労働者の理解と協力(第7条)
 分割会社は、分割に当たり、労働大臣の定めるところにより、その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとします。



6.
指針 (第8条)

 労働大臣は、この法律に定めるものの他、分割会社および設立会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約および労働協約の承継に関する措置に関し、その適切な実施を図るために必要な指針を定めることができます。

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