第四回 吸収分割の手続き

 次に、吸収分割を見てみます。なお、解説の部分は新設分割を参照してください。




1.
分割計画書の作成(第374条ノ17第1項)

(分割計画書の記載事項)(同条第2項)
(1) 承継会社が定款の変更をするときは、その規定
(2) 承継会社が分割に際して発行する新株の総数、額面無額面の別、種類、数、分割会社(物的分割の場合)またはその株主(人的分割の場合)に対する株式の割り当てに関する事項
(3) 承継会社の増加する資本の額および準備金に関する事項
(4) 分割会社(物的分割の場合)またはその株主(人的分割の場合)に支払いをすべき金額(分割交付金)を定めたときは、その規定
(5) 承継会社が分割会社から(包括)承継する権利義務に関する事項
(6) 人的分割の場合、分割会社の資本または準備金の減少をするときは、減少すべき資本の額または準備金に関する事項
(7) 人的分割の場合、分割会社が分割に際して株式の消却または併合をするときは、その方法
(8) 各会社(分割会社または承継会社)において、承認をする決議をすべき株主総会の期日
(9) 分割期日
(10) 各会社(分割会社または承継会社)が分割の日までに利益の配当または293条ノ5第1項の金銭の分配(中間配当)をするときは、その限度額
(11) 承継会社につき分割に際して就職すべき取締役または監査役を定めたときは、その規定〔大会社の場合には、これに加えて会計監査人の氏名または名称(監査特例法第3条第8項)〕



2.
株主総会の承認(同条第1項)

株主総会の承認には特別決議(発行済み株式の総数の過半数にあたる株式を有する株主が出席し、かつその議決権の2/3以上にあたる多数決)が必要です(同条第4項、第343条)。



3.
分割計画書の要領の招集通知への記載(同条第3項)→[分割会社または承継会社の各株主に対する事前開示]



4.
承継会社の定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めがある場合または承継会社が分割により定款を変更してその定めを設ける場合、分割会社の定款にその定めがないときの分割会社における2.の決議(同条第5項)

第348条第1項(総株主の同条第5項の過半数かつ発行済み株式総数の2/3以上にあたる多数決)が適用されます。但し、物的分割はこの限りでありません(分割会社の個々の株主は株式の割当てを受けないことから)。



5.
承継会社が分割により定款を変更して4.の定めを設ける場合(同条第6項)

4.と同様とします。



6.
承継会社の定款に4.の定めがある場合(同条第7項)
4.の決議をすべき株主総会については、その会社の定款にその定めがある旨を3.の通知に記載しなければなりません。



7.
分割契約書等の備置 (第374条ノ418)→[分割会社もしくは承継会社の株主及び債権者に対する事前開示]

(備置期間)(第1項) 承認をする株主総会の会日の2週間前(株主総会招集通知の発信期限)〜分割の日の後6ヶ月を経過する日(分割無効の訴えの提訴期限)

(備置書類)(第1項)
(1) 分割契約書
(2) 分割会社(物的分割の場合)またはその株主(人的分割の場合)に対する新株の割り当てに関する事項につき、その理由を記載した書面
(3) 各会社(分割会社または承継会社)の負担すべき債務の履行の見込みのあることおよびその理由を記載した書面
(4) 承認をする株主総会の会日の前6ヶ月内の日において作成した各会社(分割会社または承継会社)の貸借対照表
(5) (4)の貸借対照表が最終の貸借対照表でないときは、最終の貸借対照表
(6) 分割会社または承継会社の最終の貸借対照表とともに作成した損益計算書
(7) (6)の損益計算書のほか(4)の貸借対照表とともに損益計算書を作成したときは、その損益計算書   

(株主および会社債権者の閲覧請求等)(第2項)    
第374条ノ2第2項〔第二回−1−(5)〕の規定を準用します。



8.
新株の発行に代わる自己株式の移転(第374条ノ19)

承継会社は、分割に際してする新株の発行に代えて、その有する自己の株式で211条(自己株式の処分)の規定により相当の期間に処分をすることを要するものを分割会社(物的分割の場合)またはその株主(人的分割の場合)に移転することができます。この場合においては、移転すべき株式の総数、額面無額面の別、種類および数を分割契約書に記載しなければなりません。



9.
債権者保護手続(第374条ノ20)

(1) 各会社(分割会社または承継会社)は、承認の決議の日から2週間以内に、その債権者に対し、分割に異議があれば一定の期間内にこれを述べるべき旨を官報をもって公告し、かつ判明している債権者には、各別にこれを催告しなければなりません。承継会社がその広告を官報のほか公告をする方法として定款に定めた時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲げてするときは、その会社においては、その催告をすることを要しません(第1項)。
(2) なお、債権者の異議手続については、合併についての第100条第1項後段、第2項および第3項(債権者の異議)、並びに第376条第3項(資本減少の場合の社債権者の異議)の各規定が準用されます(第2項)。






10.
暖簾の計上(第285条ノ7)

承継会社が分割により暖簾を承継したときは、これを貸借対照表の資産の部に計上することができます。この場合、その取得価額を付し、その取得の後5年内に毎決算期において均等額以上の償却をしなければなりません。



11.
承継会社の資本(第374条ノ21)

承継会社の資本は、分割会社から承継する財産の価額から次の金額を控除した額を限度として増加することができるものとします。この場合、分割に際して額面株式を発行するときは、一株の金額にその株式の総数を乗じた額は、資本に組み入れなければなりません。

(1) 分割会社から承継する債務の額
(2) 分割会社(物的分割の場合)またはその株主(人的分割の場合)に支払をすべき金額(分割交付金)
(3) 8.の規定により分割会社またはその株主に移転する株式につき会計帳簿に記載した価額の合計額



12.
承継会社の資本準備金等(第288条ノ2)

(1) 11.に規定する資本増加の限度額が承継会社の増加した資本の額を超えるときは、その超過額は、資本準備金として積み立てることが必要です(第1項3号ノ3)。
(2) 人的分割の場合、(1)の超過額中、分割会社の利益準備金その他会社に留保した利益の額を超えない金額を資本準備金としないことができます。この場合、分割会社の利益準備金から控除する金額は、新設会社の利益準備金とする金額を超えることができません(第4項、第5項)。



13..
分割会社における簡易な分割の手続(第374条ノ22)

(1) 物的分割の場合、分割会社が承継会社に承継させる財産につき分割会社の会計帳簿に記載した価額の合計額がその会社の最終の貸借対照表の資産の部に計上した額の合計額の1/20を超えないときは、その会社においては、〔第四回−1.−(2)〕の承認を得ることは必要ではありません(第1項)。
(2) (1)の場合、分割計画書に株主総会の承認を得ないで分割をする旨を記載しなければなりません(第2項)。
(3) (1)の場合、
1) 7.の(備置期間)の「株主総会の会日の2週間前」7.の(備置書類)の「株主総会の会日」→9.の(備置書類)の「株主総会の会日」
2) 9.の「承認の決議の日」→「分割契約書を作成した日」〔第四回−1.−(1)〕
3) 第374条ノ3(株主の株式買取請求権)〔第二回−1.−(6)〕は適用しません。
                                           (第3項)



14.
承継会社における簡易な分割の手続(第374条ノ23)

(1) 承継会社が分割に際して発行する新株の総数がその会社の発行済み株式の総数の1/20を超えないときは、その会社においては、2.の承認を得ることを要しないものとする。ただし、分割会社(物的分割の場合)またはその株主(人的分割の場合)に支払をすべき金額(分割交付金)を定めた場合、その金額が最終の貸借対照表により承継会社に現存する純資産額の1/50を超えるときは、この限りではないものとする(脱法的な行為の防止、簡易合併等にならったもの)(第1項)。   
(2) 8.の規定により分割をする会社またはその株主に移転する株式は、(1)の規定の適用については、分割に際して発行する新株とみなします(第2項)。   
(3) (1)の場合、分割契約書に承継会社については2.の承認を得ないで分割をする旨を記載しなければなりません。また、1.の(1)および(10)に掲げる事項は、記載することができません(第3項)。   
(4) 承継会社は分割契約書を作成した日から2週間以内に、分割会社の商号および本店、分割日並びに2.の承認を得ないで分割をする旨を公告し、または株主に通知しなければなりません(第4項)。   
(5) (4)の規定による公告または通知の日から2週間以内に承継会社に対し書面をもって分割に反対の意思を通知した株主は、会社に対して、自己の有する株式を分割契約がなければその有すべき公正な価格をもって買い取るべき旨を請求することができます(分割新株の割当比率が著しく不公正な場合、承継会社の株主が不利益を受ける場合もあり得るため)(第5項)。   
(6) (5)の請求は、(5)の期間の満了の日から20日以内に株式の額面無額面の別、種類および数を記載した書面を提出する方法によらなければなりません(第6項)。   
(7) 第245条ノ3第2項から第5項までおよび第245条ノ4(営業譲渡等に反対の株主の買取請求の規定)の規定は、(5)の場合に準用します(第7項)。   
(8) 承継会社の発行済株式の総数の1/6以上に当たる株式を有する株主が(5)の規定による反対の意思の通知をしたときは、ここで定めた手続による分割をすることができません(第8項)。
(9) (1)本文の場合、
1) 第374条ノ18第1項中、「前条(第374条ノ17)第1項の株主総会の会日の2週間前」(W−1−(7)−(備置期間)〕同条第1項第4号中、「前条第1項の株主総会の会日」→「第374条の20第1項〔第4回-1.-(14)-@〕または第374条ノ23第4項〔第4回-1.(14)-C〕の規定による公告、催告または通知の日のうち、最初の日」とします。



15.
分割の登記(第374条ノ24)

(1) 会社の分割があったときは、分割会社および承継会社は本店の所在地においては2週間、支店の所在地においては3週間以内に、変更の登記をしなければなりません(第1項)。
(2) 第374条ノ8第2項〔U−1−(12)−A〕の規定は、@の場合に準用するものとします(第2項)。
(3) 分割登記手続
(申請権者)  
分割会社または承継会社の代表(商業登記法第14条、第17条2項) (添付書類)
(a) 分割契約書 
(b) 分割会社の株主総会〔取締役会(簡易な分割の場合)〕または〔社員総会(有限会社の場合)〕の議事録
(c) 債権者保護手続をしたことを証する書面
(d) 承継会社の資本増加の限度額を証する書面
(e) 承継される財産の帳簿価額を証する書面および分割会社の最終の貸借対照表(分割会社における簡易な分割の場合)
(f) 承継会社における反対株主の有する株式の総数を証する書面(承継会社における簡易な分割の場合)
(g) 分割に際して就任する取締役または監査役の就任承諾書
(h)分割に際して定款の変更をするときは、定款の変更の公告をしたことを証する書面
(i) 分割会社の登記簿謄本および株式の併合等のための株券提供公告をしたことを証する書面

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