第一回 商法改正 ・会社分割

 現在大きな動きがあり何かと話題になっているのが平成12年度の商法改正です。今回の商法改正の中心である会社分割については、最近、まとまった解説書などが出版されてきていますが、内容が必ずしも分かりやすいものではないように思われます。今回の商法改正は、平成11年の商法改正(完全持株会社創設のための株式交換、株式移転)、産業活力再生特別措置法の制定(内容については、法令データ提供システムで検索してください。)に続く、事業再編のための法律改正です。
 そこで、今回から、数回にわたって、改正商法その他の法律の各条文に沿って、商法に新たに規定された会社分割およびそれに伴う商法その他の法律の改正についてその概要を見ていくことにします。



1.
会社分割の意義と今回の商法改正の背景

 会社分割とは、会社の営業〔判例によれば、「単なる営業用財産の譲渡をいうのではなく、営業そのもの、すなわち一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産」(最高裁昭和40.9.22判決)とされています。〕の全部または一部を分離する手続をいい、会社の合同を目的とする会社の合併とは正反対の性質を持つ組織法上の行為です。
これまで、商法には、会社の「合併」については規定がありましたが、会社の分割については規定がなかったため、今回、商法改正(平成13年1月1日から施行により法律が適用される予定です。)がなされたものです。
 現在、インターネット等の普及により、社会経済のグローバル化が進み、会社の国際的な競争がいっそう激しさを増しています。わが国においても会社の組織を分離・独立させ、会社経営の効率化をはかるため、組織の再編成を容易に行いたいという産業界の要望が高まってきたことから、今回の商法改正が行われました。
 会社分割の手続については、分割会社または承継会社の株主、分割会社または承継会社の債権者・取引先、分割会社の労働者等に重大な影響を及ぼすことから、これらの者の利益を保護するための規定を改正商法では設けています。



2.
会社分割は何のために行うものなのか

 会社分割の目的を、類型ごとに見てみましょう。

(1) 会社分割には「新設分割」と「吸収分割」があります。

「新設分割」は、分割をする会社(分割会社)の営業(全部または一部)を新しく設立する会社(新設会社)に承継させる類型です(商法第373条)。
「新設分割」は、複数の事業部門を有する会社が経営の効率化をはかるため、各事業部門を独立させる目的で利用されるものです。

図/新設分割

「吸収分割」は、分割する会社(分割会社)の営業(全部または一部)を他の既存の会社(承継会社)に承継させる類型です(商法第374条ノ16)。
「吸収分割」は、親会社の下にある複数の子会社の重複する営業部門を特定の子会社に集中させることにより、組織の再編成と経営の効率化をはかるために利用されるものです。

図/吸収分割

(2) 人的分割と物的分割

 新設会社(新設分割の場合)または承継会社(吸収分割の場合)が分割に際して発行する株式の割当て先については、

分割会社自体に割り当てる方法(物的分割)
分割会社の株主に割り当てる方法(人的分割)

があります(商法第374条第2項第2号、第374条ノ17第2項第2号)。

 物的分割は、従来、営業の現物出資により行われていた分社化を効率的に行うために利用されるものであるとともに、人的分割は、今回の商法改正により新しく設けられた制度であり、持株会社である親会社の下にある子会社を事業部門ごとに再編成したり、複数の事業部門を独立した会社にするために利用されるものです。
 なお、改正商法は、一部分割〔会社分割に際して新設会社(新設分割の場合)または承継会社(吸収分割の場合)が発行する株式の一部を分割会社に、残りを分割会社の株主に割り当てる方法〕を否定していませんが、消滅分割(分割会社が営業全部を他の会社に承継させて自らは清算をすることなく直ちに消滅する方法)を認めていません。
 また、非按分型分割(人的分割の場合に、持ち株数に比例しないで株主に割り当てる方法)は、株主平等の原則を害することから、株主全員の同意を得た場合のみ有効であると考えられます。

 こうして見てみると、会社分割は必ずしも大企業だけのものではなく、中小のベンチャー企業の経営効率化にも十分利用できるものといえます。
 次回以降、それぞれの会社分割手続き、分割会社の労働者への影響などについて解説していきます。

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